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サーフィン市場に国民の資産を注ぎ込むな!

2003727

宇佐美 保

 最近の株価の上昇に伴い、次の記事が、朝日新聞(7/22付け)に載っていました。

東京証券取引所など国内主要3市場の売買代金に占める個人投資家の割合は、3月の12.2%から6月には18.4%に上昇し、7月に入ってからは20%を超えている。……

この記事から、個人投資家が株式市場に戻ってきて、日本の株式市場は本来のあるべき姿に戻りつつあると早合点してはいけないのです。

何故なら、この記事は次のように続くのです。

個人投資家の売買はネット経由が目立っている……(松井)証券の推計では、6月の個人投資家の売買代金の約8割がネット経由だった。

 各社によると、短期的な売買を繰り返すプロ級の顧客が売買回数を増やしただけでなく、ネット取引から離れていた顧客が戻ってくる例や、店頭や営業マンに注文を出していた顧客が手数料にひかれてネット取引を始める動きも出ている。

松井証券の松井道夫社長は「今回は外国人投資家の動きに、個人投資家がすかさず追随して相場をリードし、その動きに国内の機関投資家が乗っかってきた。個人がメーンプレーヤーとなった初めての相場だ」と指摘。「ただ、個人は引き時も早く、今回の大商いも一気にしぼむ可能性がある。今後もことあるごとに、ネットの個人が相場を動かす可能性が出てくるだろう」と話す。

 

 此処で、この記事に先ず文句を付けなくては成りません。

即ち、「投資」と「投機」の言葉をはっきりと使い分けなくては成らないのです。

広辞苑を引いてもこの2つの言葉は、全く違う意味を持っている事が判ります。

「投資」:元本の保全とそれに対する一定の利回りを目的として貨幣資本を証券(株券および債権)化する事。

「投機」:市価の変動を予想して、その差益を得る為に行う売買取引

 従いまして、この記事に於ける「外国人投資家」は当然「外国人投機家」と、そして、個人投資家の多くは「個人投機家」なのです。

短期的な売買を繰り返すプロ級の顧客が売買回数を増やした」との記述の「プロ級の顧客」はまさに、「個人投機家」な訳です。

 

 ですから、7/25付けの記事は、次のようになっています。

大手インターネット証券5社の03年4〜6月期決算は、いずれも四半期としては過去最高の経常利益を達成した。5月からの株価上昇で新規顧客が増えたほか、従来の顧客も積極的に売買を繰り返し、株式の売買手数料収入が急増した。

 売り買いの繰り返しで差益を得る「投機家」には、迅速に取引が出来、取引手数料が安いネット証券は貴重な存在となって来たという事です。

 

 従って、「個人投資家の割合は、……20%を超えている」との記事は、当を得ていないのです。

真の「個人投資家」(一定の利回りを目的)は、さほど株式市場へ戻ってきていないのです。

 

 ですから、今の株式相場は、「投機家」に操られているわけです。

投機家は、「安値で買い、高値で売る」の繰り返しで利益を得る事が出来るのですから、彼等にとって嬉しいのは、相場変動が激しい事です。

(なにしろ彼等にとって、売買対象の株の利回りなどは二の次三の次でよいのです。大事なのはその株価の変動の波が激しいか否かなのです。)

相場変動がなければ、「投機家」はお手上げです。

 

 まるで、サーフィンのようなものです。

(波が全く無くては、サーフィンは出来ません。)

 

 ところが、機関投機家にとっての株式市場は、サーフィンとは若干異なります。

巨額な資金を操る「機関投機家」は、市場に波を起こす事が可能なのです。

(時には、グリーンスパンだとか、メロンパン?だとか訳の判らないお偉い方々の言葉尻、或いは、政治資金調達の為(?)、政治家達は故意に風波を立てる発言等を巧みに利用)

そして、彼等はその波でサーフィンを楽しみしこたま儲ける事も可能なのです。

そのお零れを「個人投機家」が預かるわけです。

(「個人投機家」は、自分で波を起こせませんから、波が静まってきたら早々に退散するのです。)

 

 そして、この株式サーフィンで、一寸失敗して沖に流されたりしても大丈夫なのです。なにしろ、日本政府などは、「株価対策」と称して、我々の「郵便預金」やら、「年金基金」等の大事なお金を注ぎ込んで、ご親切にも上げ潮を作ってくれますから、その波に乗って又岸に戻ってくればよいのです。

 

 でも可哀相なのは、「個人投資家」です。

彼等は、株サーフィンを操れない為に、最終的に彼等が、値下がり株(トランプのババのような株、利回り無視の株)を抱え込む事になります。

彼等は、買値より下がってしまった株は、人間の習性として、なかなか手放さないものです。

その上、証券会社等からは「株はGDPと連動して上昇する」と、「日本経済の発展と共に上昇する」等々吹き込まれていますから、下落した株とて手放しません。

この結果、(従来の企業間の持ち合い株効果も伴い)株価は下落を免れ、一般的に上昇する傾向があったわけです。

 

 しかし、拙文「株価を経済の指標と思い込み続ける愚かなマスコミ」にも書きましたように、これらの証券会社などの御神託は全く事実無根なわけです。

 

いくら「個人投資家」が可哀相と言っても、彼等はご自身の意志で、株を買うのですから、そこで損失が生じても、ご自身の責任でもあります。

 

 ですから、一番可哀相なのは、日本国民なのです。

と申しますのは、727日付けの朝日新聞に拠りますと、[我々が積み立てている国民年金と厚生年金の積立金(147兆円)を預かる特殊法人、年金資金運用基金は、国が勝手に決めた配分比率に従い、最終的に12%を国内株に投じる]というのですから、いい加減にしろと怒鳴りたくなります。否!怒鳴らなくてはいけないのです!

 そして、記事は次のように続きます。

[全額自主運用になれば、有価証券の保有額で全生保を超え、株価次第で時価総額の5%前後を握る」(玉木伸介・総合研究開発機構主任研究員)圧倒的な機関投資家が誕生する

 冗談ではありません。

こんなサーフィン株を購入するのは、投資家ではありません!投機家なのです。

そして、投機家なら投機家らしく資産運用をすべきなのに、記事は次のように書いています。

[(東京株式)市場関係者は「25日のように、5や10が付く『ごとお日』は、ある資金(年金資金運用基金)の買いが決まって入る、という思惑があり、下げ相場でも下げ渋る傾向がある」と話す。「思惑」を裏付けるような展開だった。

 斯くも、相手方にその思惑を読まれている投機家が、本来の投機的役割を全う出来るはずはありません。

 従って、当然ながら、次の大赤字紹介記事につながってしまうのです。

02年度末の運用損は、本州四国連絡橋3ルートの建設費に匹敵する約3兆円に膨らんだ

 (ところが、インチキ経済評論家の紺谷典子氏は、数ヶ月前の朝日ニュースターの番組「パックインジャーナル」中で、こんなとんでもない赤字を出している年金が実は黒字であると、いい加減な発言していたのです。拙文「インチキ評論家に乗っ取られる番組」を御参照下さい)

 

 こんな状態では、天下って甘い汁を吸い続けている人達でも、何か少しは行動を起こさなくてはと思うでしょう。

そこで記事は次のように続きます。

基金にも危機感はある。今年初め、基金の幹部が大手証券会社の役員に訴えた。「市場振興にもっと力を入れてほしい。このままでは大変なことになる」。最後の買い手ながら孤立無援な気分が駆り立てた。

 でもこんな行動は全く無駄なのです。

こんな事が判らずに高給を貪っている基金の幹部には本当に腹が立ちます。

現状の株式市場は、投機市場(サーフィン市場)であって、投資市場でないのです。

基金の幹部は、大手証券会社の役員に訴えるのではなくて、とんでもない運用制度を決めてしまった国へ文句を言うべきです。

“こんなサーフィン株に、国民の大事な年金基金を注ぎ込むわけには行かない。即刻、サーフィン市場からの撤退を決めてくれ!”と。

 

 そして、可哀相な私たち国民は、こんなとんでもない制度を制定したり、天下りを放置する国会議員たちを、選挙の際には追放しなくてはいけないのです。

 

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